No.48 解雇予告について② [2012.06.29]

こんにちは。下中です。
本日の「ひばり人事労務コラム」です。
昨日から続けて、「解雇予告」についてお伝えします。

解雇予告の義務とは、
労働者が解雇により急に職を失い、生活に窮することのないよう
(または再就職への時間的猶予を確保できるよう)、
使用者に課せられた30日以上前の予告義務のことを指します。

労働基準法では解雇予告が不要なケースも定めています
(天災地変による場合や重大な労働者の悪事など)が、
この場合も会社側の主観による判断だけでは足りず、
「労働基準監督署の解雇予告除外認定」を受ける必要があります。
この「解雇予告除外認定」ですが、
実際には、労働関係実務を日々取り扱う専門家である社労士でも
めったに取り扱わないレアケースです。

「そんなヒドイ労働者は解雇予告不要だから、即時解雇して問題ない」
とまで言える解雇事案はほとんどないと思うほうが、
のちのトラブルリスクを考えると賢明でしょう。
実際に巷で見聞きする「即時解雇」は
解雇予告除外認定を受けているかというと、
まずほとんどのケースで受けていないと思われます。
ただし、解雇予告に代わる「解雇予告手当」の支払いをした上で
即時解雇するケースはしばしばあります。

対象者以外の従業員への影響を考えると、
痛みを伴いますが、賢明な判断といえるのではないでしょうか。

さて、「解雇」そのものの話に戻りますが、
労働基準法において、
就業規則への「解雇事由」の記載が義務付けられています。
※労働基準法第89条の3 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
(「作成及び届出の義務」のうち、必ず定めなければならない項目として)

また、裁判例でも、
就業規則に定められていない理由による解雇は無効、
とされる場合がほとんどです。
どういう場合に解雇されるかをわかりやすくするため
(解雇についての事前の予測可能性を高めるため)、
就業規則に「退職に関する事項」として
「解雇の事由」を記載する必要があるのです。
就業規則を何年か見直しをしていない事業所様は、
既に作成している就業規則に、
「退職に関する事項」として「解雇の事由」を記載していなければ、
「解雇の事由」を記載しなければなりません。
(就業規則届出の義務のある事業所は、変更も同様に届出が必要です。)

記載もれがないか、今一度チェックしてみてください。

本日も、「ひばり人事労務コラム」
お読みいただきありがとうございました。

No.47 解雇予告について① [2012.06.28]

こんにちは。下中です。
本日の「ひばり人事労務コラム」です。
「解雇」についてお伝えしておりますが
続けて、「解雇予告」について考えます。

法律では、解雇に関し、
「合理的な理由が必要である」と「予告が必要である」
という二つの要件があります。

これらは、解雇には労働者の生活の安定を脅かす可能性があり
(多くの労働者にとっては賃金が唯一の収入源である)、
その点で雇用契約は、特に慎重に保護される必要性があるからです。
そのうち「解雇予告」は、
いわば「再就職先を見つけるための期間」を設けるものですが、
次のようなルールがあります。
1.①30日以上前に予告するか
②平均賃金の30日以上分の解雇予告手当を支払うか
③予告と予告手当を組み合わせるかのいずれかが必要である
一般に、
「1か月前予告」や「1か月分の解雇予告手当」と誤解されがちですが、
正確には「30日以上」です。
つまり、解雇予告時期によっては、
1か月前予告では法律違反となり得ますのでご注意ください。

また、「解雇予告手当には残業代などの手当を含めないでよい」
という誤解も起こりがちですが、
計算根拠となる平均賃金の計算には残業代その他手当を含めますので、
手当を除かずに計算をしてください。
因みに解雇予告手当は
「精神的苦痛」「残業代」等と比べて金額が正確に算出できるため、
解雇を巡る労使トラブルの際に労働者側が主張しやすいものです
(退職した労働者からの「内容証明郵便」の文面に
解雇予告手当がしばしば登場します)。

《労働契約法第16条》
解雇は、
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、
その権利を濫用したものとして、無効とする。
(労働基準法に定められていましたが、
労働契約法の成立により、労働契約法第16条に移行しました。)

《労働基準法第20条》
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、
少くとも三十日前にその予告をしなければならない。
三十日前に予告をしない使用者は、
三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
但し、天災事変その他やむを得ない事由のために
事業の継続が不可能となつた場合
又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、
この限りでない。
2  前項の予告の日数は、
一日について平均賃金を支払つた場合においては、
その日数を短縮することができる。

本日も、「ひばり人事労務コラム」
お読みいただきありがとうございました。

No.46 解雇について② [2012.06.27]

こんにちは。下中です。
本日の「ひばり人事労務コラム」です。
昨日に引き続き、「解雇」についてお伝えしますが
本日は違う視点から考えます。

解雇を「するか」「しないか」という場面に直面したとき、
経営者・担当者は何を拠り所にその決断をすればよいのでしょうか。

解雇をめぐる事案には大抵多面性があるため、
その決断は慎重に行わなければなりませんが、
それを「損得」という二元論で考えた場合には、
次の各要素を対比させて考えることができます。
≪解雇を是(得)とする理由≫

1.下記の例のように、その者を雇い続けることで回避できるリスクがあるから
・素行に問題があり企業秩序維持に著しい支障をきたす
・生産性が著しく低く、雇用継続が人件費の無駄以外の理由を持たない
・業務上外の素行不良事実を看過すると企業モラルの低下が起きる

2.財務上や、ワークフロー上の無駄が減ることで効率化を期待できるから

≪(解雇を非(損)と考える理由)≫

1.法律要件たる「合理性・相当性」が十分でない場合、
解雇無効を巡る訴訟が起きるかもしれないから

2.残業代未払いなどの法律違反が明るみになり、
さらなる金銭ダメージが起こるかもしれないから

3.助成金が不支給になるなどの副次被害があるかもしれないから
会社は上記を踏まえて、状況に則した判断をしなければなりません。
しかしながら、中小零細企業にとって、
従業員を、他の業務に就かせたり、部署を異動させるなど、
代替の策を用意することはなかなか難しいですね。

また、社長の考え方、社風などがストレートに反映しますし、
従業員間の雰囲気の善し悪しは、
会社の扱いの不公平感というものが一番怖いです。
対象者本人のことも大事ですが、
他の従業員への影響も十分考えて判断しましょう。

場合によっては、勇気をもって解雇することも大事だと思います。
もちろん、就業規則にも、
解雇する理由をしっかりと記載する必要がありますが、
大企業のマネではない、柔軟なルールが必要と言えます。

もちろん、十分に話し合って解決できれば、それに越したことはありません。
本日も、「ひばり人事労務コラム」
お読みいただきありがとうございました。

No.45 解雇について① [2012.06.26]

こんにちは。下中です。
本日の「ひばり人事労務コラム」です。
今までに少し、「懲戒」についてお話しましたので、
関連して、「解雇」について続けて考えてみたいと思います。

「日本では解雇をしにくい。だから正社員雇用は慎重にしなければ・・・」
と巷で言われていますが、
その根拠はどこにあるのでしょうか。
まずは、解雇にまつわる法律について解説します。
解雇の有効無効については、次の二つが重要なポイントとなります。
1.解雇は、「客観的にみて合理性があり」、「社会通念上の相当性がある」
ことを求められる。

客観的な合理性の有無とは、
『解雇という重いペナルティーに見合うほどの事実があったか』
と解釈できます。

その事実は、
「労働者の問題(横領や無断欠勤など)」と
「会社の問題(業績悪化など)」に分類され、

過去の判例を拠り所にしてその合理性を判断することになります。
また、社会通念上の相当性とは、
「いわゆる一般人10人に解雇の是非について聞いてみたとして、
8人~9人が『解雇止むなし』と考えるかどうか」
と解釈できます。

上記を満たさない場合は、解雇無効(効力なし)となり、
その人との雇用関係は継続することになります。
2.解雇が有効だったとしても、多くの場合「事前予告」をしなければならない。

1の要件をみたす解雇であったとしても、
急にクビをするとその人の生活に支障がでる(かもしれない)ために、
30日以上前の予告が求められるわけです。
(労働基準法第20条)
※予告についてはさらに詳細な決まりごとがあります。
「合理性・相当性」と「予告」。

労使トラブルを防ぐためにも、
解雇のことを考えるときにはまず思い浮かべて欲しいポイントです。

本日も、「ひばり人事労務コラム」
お読みいただきありがとうございました。

No.44 「遅刻3回で1日欠勤の扱い」は可能なのか?【実例】 [2012.06.25]

こんにちは。下中です。
本日の「ひばり人事労務コラム」です。
【実例】(設定は、実際とは少し変えています。)
Eさんは、入社して浅いですが、とても真面目な社員です。
仕事も早くて正確と評判です。
休むこともめったにありません。
そんなEさんですが、ここ最近、少し疲れているようです。
どうも家庭で問題が起こっているようです。
睡眠不足が続いているようで、
ある日、遅刻してしまいました。
そして何日かして遅刻、そしてまた何日か後に遅刻。

いつも真面目なEさんですし、上司のS氏も心配して声をかけますが、
大丈夫と言うので、それ以上はなかなか言えない状態です。
さて、給料日になりました。

Eさんの給料、遅刻について、
・・・3回遅刻ということで、1日欠勤とされ、
その分の給料が引かれていました。
驚いたEさんは、まずは上司のS氏に確認しましたが、
S氏もそれは経験がなく答えられませんでしたので人事に確認したところ、
就業規則、賃金規程に定めがあるとのことでした。

給料が、多少引かれることは覚悟していましたが、
こんなに引かれるとは思っていませんでした。
そもそも遅刻は3回合わせても、1時間にもなりません。
この制度は本当に有効なのでしょうか???

———————————————————

この制度を導入している会社様は、たまにあるようです。
(かなり前の話ではありますが、正真正銘「実例」です。^^ゞ)

法的なところでは、解釈の分かれるところのようです。
何が問題になるかというと、
前回お話した、
「減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超えてはならない」
という部分ですね(労働基準法第91条)。

就業規則等に定めをしてあることが前提ですが、
解釈によっては法的にもクリア、と考えられますが、
違法になるとも考えられますので、
あまりおすすめできません。

というよりも・・・
そもそも、この制度の目的は、
遅刻した社員を戒め、遅刻をしないようにする制度だと思われます。
しかし、賃金に対する考え方はいろいろで、
中には、「罰金さえ払えばいいんだろ」という従業員もいれば、
そもそも、給料を引かれたことに気付かない従業員もいるのです。

ですから、罰金を取る、というような制度自体を、
あまりおすすめできないのです。
(もちろん定めることもできます。)

遅刻した従業員に対しては、懲戒処分として、
反省を促し、始末書を取るなどの処分を検討すべきかと思います。
もちろん、そこは、「就業規則」の「懲戒」と、
遅刻等に対して減給をするならば、
「就業規則」と「賃金規程」等にも定める必要があります。
おそらく、よく遅刻する従業員がいたので、
そのような従業員対策で、この制度を定めたのだと思いますが、
普段は該当しそうもないのにたまたま遅刻した従業員に適用され、
不満の原因になったりします。

制度設計は慎重に考えてくださいね。
なお、家庭の事情などで、勤務時間を変更した方がよい場合には、
柔軟に対応することもひとつの方法だと思います。

時間を短くしたり、平易な業務への転換や役職の変更等を伴う場合には、
給料を変更することも可能です。
★ただし、遅刻癖のある人間は、
9時には間に合わないから10時に変更すればちゃんと来る、かというと・・・
やっぱり遅刻することが多いので、
そこは別の対策をする必要があるでしょう。

本日も、「ひばり人事労務コラム」
お読みいただきありがとうございました。

No.43 就業規則の制裁規定の制限について [2012.06.22]

こんにちは。下中です。
本日の「ひばり人事労務コラム」です。
本日も、もう少し引き続き、
就業規則についての労働基準法に定められているところを見ていきます。
労働基準法第91条には、就業規則の制裁規定の制限が定められています。

就業規則で、
労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、
その減給は、
一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、
総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはなりません。

これは、働いているにもかかわらず、
罰金のようなものとして、給料を払わないことで、
「減給」する場合には、上限が決められています。
事例で検討してみます。

●遅刻・早退や、欠勤などにより、賃金が控除されることは問題ありません。
ただし、遅刻や早退を、例)30分単位で計算しており、
30分に満たない遅刻を30分として控除することは、
この減給にあたることになりますので、注意が必要です。

●就業規則の定めに従い出勤停止を命じ、
その期間中の賃金を支払わないことは問題ありません。

●1日に2個の懲戒事由に該当する行為があれば、
その2個の行為について、
それぞれ平均賃金の1日分の半額ずつ減給することは問題ありません。

●「減給10%」という措置を見ることがありますが、
1回の事由に基づく減給は平均賃金の半日分ですから
この措置は違法となる可能性が高いです。
複数の懲戒理由についてそれぞれに減給額を計算し、
それを合算したものを、
毎月1割以内ずつ差し引いていくことは可能です。

●減給の制裁が1賃金支払期における賃金総額の
10分の1を超えて行う必要が生じた場合、
その減給は、次期の賃金支払期に延ばすことも可能です。
なお、何らかの理由があって、減給という措置を取るわけですが、
減給することを就業規則で規定しておくことが必要です。
減給だけでなく、「懲戒」という項目を作成し、
どのような場合にどのような懲戒処分を行うか、
予め従業員に知らせておきましょう。

すでに就業規則を定めている場合は、
懲戒の項目をチェックしてみてください。

本日も、「ひばり人事労務コラム」
お読みいただきありがとうございました。
★なお、「ひばり人事労務コラム」は、
当面、土・日・祝日の掲載をお休みすることにいたしました。

No.42 就業規則作成の手続きについて [2012.06.21]

こんにちは。下中です。
本日の「ひばり人事労務コラム」です。
本日は、昨日に引き続き、
就業規則についての労働基準法に定められているところを見ていきます。

労働基準法第90条には、就業規則作成の手続きが定められています。
●就業規則の作成又は変更について、
労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においては
その労働組合、
労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては
労働者の過半数を代表する者
の意見を聴かなければなりません。
中小企業では、労働組合のない会社等が一般的かと思います。
この「労働者の過半数を代表する者」を選ぶときには、
いくつか注意が必要です。
この代表者には、管理監督の地位にあるものはなれません。
(管理監督の地位にあるものしかいない場合は、その中から選出します。)

従業員の中から立候補、前任者の指名等による候補者から、
目的を明らかにした上で、
投票、挙手等の方法により選出します。
また、会社が指名してもいけません。

「親睦会」等を作っている会社で、
会長となったものを従業員代表としてよいか、と聞かれることがありますが、
会長となったものを、自動的に代表とすることはできません。
そのものが立候補し、または前任者が指名をするなどをし、
手順を踏んだ選出方法をとる必要があります。

●就業規則の届出には、意見を記した書面を添付しなければなりません。
(第90条第2項)

書面は意見を記してあればよく、記載内容が反対意見であっても構いません。
しかしながら・・・
反対意見を書いた書面を添付することは望ましくないでしょう。
従業員側の意見もよく聞き、納得の上でスタートすることが、
今後の運営にも効果が出ることでしょう。

会社側も、よく説明できるようじっくりと考え、
新しい就業規則をスタートさせましょう。
従業員代表は、それ以外の場面でもたびたび登場します。
選出方法を、よく覚えておきましょう。
なお、
就業規則の作成にしろ、代表選びにしろ、
会社、事業所の小さいうちからルールを作っておけば、
あとあとも、楽に運営できるのではないでしょうか。

本日も、「ひばり人事労務コラム」
お読みいただきありがとうございました。

No.41 就業規則の作成および届出について [2012.06.20]

こんにちは。下中です。
本日の「ひばり人事労務コラム」です。
本日は、就業規則の作成および届出についてお伝えします。
こちらは、労働基準法第89条に定められています。
常時10人以上の労働者を使用する使用者は、
就業規則を作成し、所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません。
就業規則を変更したときも同様です。

「常時10人」には、常時使用していれば、パートも含みます。

★義務となっているのは、10人以上ですが、
10人未満の事業所様にも、作成をおすすめしております。
★労働基準監督署長に届け出ることが「義務」ですが、
就業規則の効力が発生するのは、届け出たときではなく、
「労働者に周知したとき」です。
こちらはまた別途、ご説明いたします。
就業規則の記載事項は、
記載が義務づけられている事項(絶対的必要記載事項)と、
その定めをする場合には記載義務のある事項(相対的必要記載事項)
があります。
●絶対的必要記載事項
次の事項は必ず就業規則に記載しなければなりません。

(1)始業及び終業の時刻、休憩時間、休日・休暇、
労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合における
就業時転換に関する事項
(2)賃金の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切及び支払の時期、
昇給に関する事項
(3)退職に関する事項(解雇の事由を含む)
●相対的必要記載事項
次の定めをする場合には就業規則に記載しなければなりません。

(1)退職手当の定めをする場合は、労働者の範囲、
退職手当の決定・計算・支払いの方法及び支払の時期に関する事項
(2)臨時の賃金等及び最低賃金額の定めをする場合は、これらに関する事項
(3)労働者に食事、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合は、
これに関する事項
(4)安全及び衛生に関する定めをする場合は、これに関する事項
(5)職業訓練に関する定めをする場合は、これに関する事項
(6)災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合は、
これに関する事項
(7)表彰及び制裁の定めをする場合は、種類及び程度に関する事項
(8)当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合は、
これに関する事項
詳しいところは随時、ご説明したいと思います。

本日も、「ひばり人事労務コラム」
お読みいただきありがとうございました。

No.40 私生活上の犯罪・非行に対する解雇は有効か [2012.06.19]

こんにちは。下中です。
本日の「ひばり人事労務コラム」です。
No.39では、会社の責任のある従業員の事故について考えましたが、
本日は、従業員が犯罪等を犯した場合を考えてみます。

酒に酔って暴力事件を起こした、
窃盗や不法侵入などの犯罪行為を働いて逮捕された、
痴漢等の性犯罪の加害者となった、など、
私生活上の犯罪行為や非行を理由とした解雇は有効でしょうか。

私生活上の犯罪行為等について、
会社として心情的に許せなくても、
安易に解雇をしないように注意をしなければなりません。
以下のポイントに沿ってその是非を検討してください。

**************************************************
【1.犯罪の程度】
「懲役刑なのか、数千円の罰金刑なのか」といった
刑罰の重さは解雇有効性に影響を与えうるポイントです。
例えば、「酒に酔って住居不法侵入により罰金刑に処された社員を解雇した」
事案では、
懲戒解雇の相当性がないということで解雇無効の判決が下されました。

【2.職種】
職業に貴賎はないとはいえ、
その職業に特に求められる倫理と、
起こした犯罪のバランスもポイントとなります。
プロボクサーが暴力事件を起こした場合は厳しく罰せられるのと同様に、
例えば乗客の痴漢を厳しく取り締まるべき鉄道会社の社員が、
自ら性犯罪を犯した場合は、解雇の有効性を認められやすいでしょう。

【3.就業規則上の根拠】
もちろん就業規則上にその根拠がなくてはなりません。
「刑法上の犯罪を犯し、会社の信用を著しく落とした場合は、懲戒解雇とする」
などの規定があるかを確認しましょう。

【4.会社の信用を落とした程度】
「事件がメディア報道をされた」「会社にマスコミの取材が来た」
などの事実の有無と、
その程度もポイントとなります。

【5.解雇の場合に労働者が受ける不利益の程度と、事件とのバランス】
「解雇となった時に、退職金が不支給または減額となる」
などの規定がある場合、
そのマイナス分と事件の重大性の
バランスが取れていることも求められるでしょう。
**************************************************

上記ポイントを踏まえて処分を検討してください。

本日も、「ひばり人事労務コラム」
お読みいただきありがとうございました。

No.39 業務上事故の使用者責任について [2012.06.18]

こんにちは。下中です。
本日の「ひばり人事労務コラム」です。
関越自動車道で4月29日に7人が死亡した高速ツアーバスの事故は、
その凄惨さから世間の大きな注目を集めています。

数年前にも、同様の事故が発生し、犠牲者が出ました。
その時から何ら変わっていなかったことが悔やまれてなりません。

価格競争に端を発する業界の下請け・孫請け構造、
労務管理体制の不備や違法性が次々に明らかになると同時に、
今後企業は、
世間からますます高い企業倫理を求められることになるでしょう。

本日は、業務上の事故の使用者責任について取り上げます。
【業務上事故の使用者責任】
そもそも、この「使用者責任」という耳慣れない言葉は、
民法上に規定されているものです。

———————————————————————
<民法715条1項>
ある事業のために他人を使用する者は、
被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
———————————————————————

つまり、仕事をしていて第三者に損害を与えた場合には、
会社には損害賠償責任があるということになります。
ただし、次の例外があります。

———————————————————————
使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、
又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
———————————————————————

これは、会社が相当の注意をしていたのに起きてしまった事故の場合は、
その範囲において会社は賠償責任を負わなくともよい、ということです。

言い方を変えれば
『「会社が相当の注意をしていた」と立証できない限りは、会社の責任はある』
ということになります。

【使用者責任の例】

●残業や休日出勤により疲労の蓄積が認められる状態で交通事故を起こした場合、
その点で企業は責任がある。

●発作を伴う病気を持った労働者であると知りながら
業務上車の運転をさせ事故を起こした場合、使用者責任がある。

●労働者が(勝手に)
不正な会計処理や公文書偽造により第三者に損害を与えた場合、
(会社が不正を命令していないとしても)
監督責任を果たしていないとなる可能性がある。
【事故を起こした労働者の責任はあるか】
もちろん事故を起こした本人にも責任があるため、
会社がその損害賠償金を支払った場合は
本人に請求(「求償」といいます)できます。

しかし、この求償の場合にも、
労働条件や事故防止策について会社の不備がある場合には制限がかかります。
会社はこのように大きな社会的責任を担っている分、
残業等の労働時間管理や内部統制には十分な対策を練る必要があります。

本日も、「ひばり人事労務コラム」
お読みいただきありがとうございました。