No.29 雇用保険料の内訳・構造 [2012.06.08]

こんにちは。下中です。
本日の「ひばり人事労務コラム」です。
労働保険の年度更新の時期でもありますので、
そちらに関連して、
本日は、そのうちの雇用保険についてご説明します。
一般に「失業保険」という呼び名で認識されていることから、
従業員が退職したときの失業保険のために納めている、
という感覚があります。
しかし本当にそれだけのためのものなのでしょうか。

その保険料内訳やお金の行き先についてはあまり知られていないことから、
今回はこの雇用保険料の内訳と構造について説明します。

1.雇用保険料は会社と従業員で分け合う

雇用保険料は、会社に対して「年度ごとに」かかります。
その計算方法は以下の通りです。

その年度の賃金算定基礎額 × 雇用保険料率

つまり、雇用保険加入者に支払う賃金総額に、雇用保険料率をかけてもとめます。
この雇用保険料率は、年度はじめに見直しがなされることがあります。
(平成24年4月からは雇用保険料率が少し下がりました。)

現在、一般の事業の場合、1,000分の13.5(つまり1.35%)
というのがその率です。

そしてこの1,000分の13.5のうち、
1,000分の5(0.5%)が従業員負担分
1,000分の8.5(0.85%)が会社負担分
という内訳になっています。

例えば給与20万円の人の場合
従業員は1,000円の負担
会社は1,700円の負担
ということになります。

会社のほうが600円多く負担していますね。
ではこの多く負担している分は何なのでしょうか。

2.助成金等事業のため、会社負担分が少し多い

実はこの会社が多く負担している分は
「雇用保険二事業」といういわゆる助成金などの財源にあてられます。

人を採用したり、解雇を防いで継続雇用をしたりといった
「雇用の安定のために」なることをしてくれた企業に対して、
助成金制度により再分配をしている構造になっています。

言い方をかえると、
「助成金を活用しない企業」が「助成金をよく活用している企業」のために
保険料を負担しているという性格があります。

無理に要件に該当させることはありませんが、
自社に助成金受給の資格があるならば、積極的に活用したい制度ですね。
どのような助成金があるか、該当するか、
お気軽にお問い合わせください。

本日も、「ひばり人事労務コラム」
お読みいただきありがとうございました。
No.28 社会保険料決定・変更のしくみ②≪「定時」「随時」どちらに該当?≫   [2012.06.07]
こんにちは。下中です。
本日の「ひばり人事労務コラム」です。
昨日、
社会保険料の決定・変更のしくみについての概要をお伝えしましたが、
算定基礎届(定時決定)の時期ですので、関連して、
1点、補足させていただきたいと思います。
「算定基礎届」と「月額変更届」の、
どちらに該当するのかを考える必要がある場合です。
1年に1回、被保険者の標準報酬月額の見直しを図るのが、
「社会保険料算定基礎届」の提出によるもの(定時決定)です。

これは、4・5・6月の給料の平均額を使用します。
この改定は、毎年9月分の保険料から反映されます。
(ほとんどの事業所様で、
10月分の給料から天引きし、10月末に納付する分です。)

これに対し、給与に大きな変動があった場合、
(昇給などにより急激に給与が変わってしまった場合、)
例外的に年の途中でも変更します。

これを「報酬月額変更」といい(「月額変更届」を提出します)、
昇給月から4か月目に変わります。
大きな変動とは、社会保険等級上2等級以上の変動を指します。

ところで、4月から給料が変更になる企業様・事業所様も多いと思います。
大きな変動があった場合、
「算定基礎(定時決定)」があるからそちらを提出すれば大丈夫、
とはいかないので、注意をしてください。
つまり、
4月に昇給して、
大きな変動(2等級以上)があった場合は、
4・5・6月の給料をもとに、
7月の社会保険料(通常8月の給料から控除する)から変更となります。
算定基礎による変更が反映されるのは9月保険料からなので、
そちらよりも早く変更となるのです。

例を出してみましょう。
①3月までの給料が30万円で、「標準報酬月額」も30万円の方が、
4月からの給料が32万円になった場合

4・5・6月の給料32万円×3=96万円
→平均32万円→標準報酬月額32万円
☆変動は1等級なので、「算定基礎届」の提出により、9月保険料より変更
②3月までの給料が30万円で、「標準報酬月額」も30万円の方が、
4月からの給料が35万円になった場合

4・5・6月の給料35万円×3=105万円
→平均35万円→標準報酬月額36万円
★変動は3等級なので、「月額変更届」を提出、7月保険料より変更
なお、大きな変動といっても、
「基本給」などの「固定給」の変更が条件となり、
固定給はそのままで、残業手当などが増えた、というような場合は、
「月額変更」(随時決定)には該当しません。
「固定給」が増えても、残業手当などの状況により、
平均額が減る場合もあります。
そのような場合には、
ずっと同じ標準報酬というわけにはいかず、
「定時決定」によって、少なくとも1年に1回は見直しを図るのです。
昇給月は4月に限りませんし、いろいろなパターンがあります。
あるいは降給となる場合もあります。
詳しくは当オフィスまでお気軽にお尋ねください。
本日も、「ひばり人事労務コラム」
お読みいただきありがとうございました。
No.27 社会保険料決定・変更のしくみ①≪算定基礎届など≫   [2012.06.06]
こんにちは。下中です。
本日の「ひばり人事労務コラム」です。
そろそろお役所から、「算定基礎届」のセットが届いていることと思います。
(年金事務所)

今回は、そちらに関連して、
社会保険料の決定・変更のしくみについてお伝えいたします。

社会保険料の変更には、2つのタイミングがあります。
①毎年見直すタイミング
②給与額により定時に見直すタイミング

少し詳しくみていきましょう。

①【毎年見直すタイミング】

1年に1回、被保険者の標準報酬月額の見直しを図るのが
「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届」で、
「定時決定」ともいい、
提出期限は7月10日となっています。

社会保険料とは、
「健康保険料」「介護保険料」「厚生年金保険料」の三つを指しますが、
このうち「健康保険料」「介護保険料」は、
加入している人の人数と、医療費(または介護に要する費用)の、
使い方のバランスです。

もっと端的にいうと
「保健制度のお財布事情」により毎年3月に見直しをします。
近年は平均寿命の延びや加入人数の減少などにより上がることが多いです。

一方で「厚生年金保険料」については、
平成29年まで「毎年上げる」ことが決まっています。
これは平成16年の法律改正時に、
「年金のお財布事情が悪いから、当面保険料率を上げ続けよう」
と決まったことによります。

そのため、毎年同額の報酬であっても、厚生年金保険料は上がり続けます。
毎年の見直しは、
前述した「社会保険料算定基礎届」の提出により変更するものです。

これは、
「毎月保険料をコロコロかえると面倒だから、
年1回、4・5・6月の給料の平均額を『むこう一年の給与額』とみなして、
1年間保険料も変えずにいこう」
という意味合いのものです。

この改定が、毎年9月分の保険料から反映されます。
ちなみに、介護保険料について
【介護保険料の給与天引き】
介護保険料を給与から天引きするのは「40歳~65歳」と決まっています。
また、厚生年金は70歳までと決まっています。
この年齢を境に、各自の保険料が変わります。

②【給与に大きな変動があった場合】

社会保険料(に係る等級)は、原則1年間据え置きますが、
昇給などにより急激に給与が変わってしまった場合、
現状に合わせるべく例外的に途中で変えます。

これを「報酬月額変更」といい、昇給月から4か月目に変わります。
大きな変動とは、社会保険等級上2等級以上の変動を指します。
いかがでしょうか?
社会保険料が変更する仕組みについて、ご理解いただけましたでしょうか。

この文章は、わかりやすくするために表現方法を単純化しており、
一部補足説明が必要な個所があります。
詳しくは当オフィスまでお気軽にお尋ねください。

本日も、「ひばり人事労務コラム」
お読みいただきありがとうございました。
No.25 労働保険年度更新の基礎知識   [2012.06.04]
こんにちは。下中です。
本日の「ひばり人事労務コラム」です。
労働保険の年度更新の時期になりました。
そろそろ、労働局からの書類が届いているころだと思います。
労働保険(労災保険と雇用保険)は、
毎年4月1日から翌年3月31日までを一区切りとして申告納付をします。
申告は6月1日から7月10日までとなっておりますが、
まだ取組されてない会社様もおありかと思います。

本日は、
労働保険の申告納付処理=労働保険の年度更新の基礎知識をお伝えします。

【保険料の計算方法】

労働保険料は、
企業全体の「年度の賃金総額」に保険料率を乗じて計算します。
そして、以下の処理を年度ごとに連続して行うことで申告・納付します。

① 年度の初めに概算払いをして
② 年度末を過ぎたら確定精算をする

つまり、年度更新とは、
「前年度の確定精算」と「新年度の概算計算」を同時に行う行為を指します。
通常は概算額と確定額は一致しないため、
その差額を、
翌年度の概算保険料と差し引き調整(充当・還付または追加納付)します。

例)平成23年4月1日に労働保険に加入した企業の場合

条件:飲食業、従業員10名、全員が労災および雇用保険に加入、
年間賃金総額見込み3,000万円、実際の賃金総額2,700万円
① 概算払い
3,000万円 ×(労災保険料率3/1,000 + 雇用保険料率15.5/1,000)
=555,000円

② H24年4月1日を迎えたら確定精算
2,700万円 × 18.5/1,000 =499,500円

①-②=55,500円を払い過ぎたため、
翌年度の概算保険料から55,500円を差し引いて納付する。
【計算式から導き出せる計算ミス防止のポイント】

前項で取り上げたように、
労働保険料の計算式は賃金総額に保険料率を乗じる
シンプルな構造になっています。

毎月の給与計算で会社がいくら雇用保険料を天引きしたかに関わらず、
単純に計算をします。

このことから、
計算ミスをする箇所は以下のふたつに大別されることがわかります。
<間違えてしまうポイント>
① 賃金総額を間違える
② 保険料率を間違える

以下に上記①②の間違いやすいポイントを列挙します。
自社で年度更新処理をされている企業様は、ご参考ください。
《賃金総額を間違える》
・雇用保険加入者の賃金をすべて算入していない
・賞与を賃金に算入していない
・アルバイトの賃金を労災の賃金総額に算入していない
・64歳以上の雇用保険料免除者の賃金を誤って算入している
・年度途中で雇用保険上の異動(資格取得・喪失)があったにもかかわらず
反映させていない

《保険料率を間違える》
・登録した産業分類が誤っている
(建設業なのに不動産業で登録している、など)
・法改正による保険料率の変更を反映させていない※
※なお、このたび平成24年4月以降の労働保険料率が改定され、
例えば雇用保険料率では一般事業で
15.5/1,000から13.5/1,000に下がることになりました。

労働保険の年度更新については、当オフィスまでお気軽にご相談ください。

本日も、「ひばり人事労務コラム」
お読みいただきありがとうございました。
No.22 残業代をめぐるトラブルの防止策②   [2012.06.01]
こんにちは。下中です。
本日の「ひばり人事労務コラム」です。
昨日取り上げた「残業代をめぐるリスク」を軽減させるためには、
具体的にどのような対策が有効でしょうか。

本日は、リスク軽減の具体的方法を

1.「業務効率化的アプローチ」
2.「就業規則・給与支払的アプローチ」

の、2つからご紹介します。
1.【業務効率化的アプローチ】

まずは「業務効率化により残業時間そのものを軽減させる」
視点で可能性を検討しなければなりません。

例えばサービス業であるならば、時間帯ごとの業務量を定量測定し、
繁閑に合わせて労働時間・休憩時間を配置するシフトを
組むことができないでしょうか。

あるいは「ノー残業デー」などの強制的な時間短縮も、
業種によっては生産性を落とさずに導入できるかもしれません。
ご存知の方も多いと思いますが、
下着メーカー「トリンプ」では、午後12時30分から2時間を
「がんばるタイム」と社内外に公言し、
その時間帯は電話(緊急のものを除く)に出ずひたすら事務処理をするそうです。
残業そのものを減らす取り組みは、
会社の人件費圧縮と従業員の生活充実の
両面に寄与する善的アプローチであることを、今一度考えましょう。
2.【就業規則・給与支払的アプローチ】

1.の、「業務効率化的アプローチ」の業務効率化による時間短縮効果が
短期的に見込めない場合や、
営業形態から時間削減が難しい場合は、
会社の制度の見直しをするアプローチが検討できます。
現状の給与支払項目の中で、
「恒常的な残業の対価ととらえることができる手当」を洗い出し、
「残業手当を固定的に支給するもの」と再定義することで、
「恒常的残業に対するケアが出来ている状態」
に整える取組み等、がこれに当たります。
<事例>株式会社Y(リフォーム販売業)の場合

・週40時間労働制
・営業社員Aの給与細目

総支給26万円:基本給20万円、職務手当5万円
通勤手当月額1万円

このうち「職務手当」は、
営業社員に対して支給される手当であり、
営業社員の恒常的な残業をケアする意味合いがありました。

そこで、就業規則(賃金規程)において、
これを「固定残業手当」と再定義し、
同時に社員Aとの間で、
この固定残業手当を記載した雇用契約書を再度取り交わしました。

その結果、社員Aさんについて、
月々5万円の残業手当が合法的に支払われている状態が整ったことになります。

固定残業手当額から逆算すると、以下の式により、
34.6時間分の残業手当が支払われていることになります。
基本給20万円 ÷ 173時間(月間所定労働時間)× 1.25
≒ 1,445円(残業単価)

5万円 ÷ 1,445円 ≒ 34.6時間
このアプローチを行うためには、以下3つが特に重要になります。
1.就業規則等に根拠があるか
2.労働者本人の同意が得られているか
3.給与明細等の上で固定的残業である旨明記されているか

固定残業手当の導入は、当オフィスにお気軽にご相談ください。

本日も、「ひばり人事労務コラム」
お読みいただきありがとうございました。